ARTSTAY
子どもたちの絵との出会いからはじまり、それぞれの想いが重なり合ってひとつになった「ARTSTAY」。
そのホテルの開業に関わった建築家やアートディレクター、バーンロムサイジャパンの代表に、
「ARTSTAY」について語っていただき、その魅力を探りました。
子どもたちの絵との出会いからはじまり、それぞれの想いが重なり合ってひとつになった「ARTSTAY」。
そのホテルの開業に関わった建築家やアートディレクター、バーンロムサイジャパンの代表に、
「ARTSTAY」について語っていただき、その魅力を探りました。
最初にホテルアートステイ那覇国際通りの改修依頼の相談を受けた時、実はコンセプトテーマは、定まっていませんでした。
ちょうどその頃、建築とは全く関係のないところで、知人より可愛い絵がある話を聞いていたのです。
見ればすごく可愛い絵でした。その絵こそ、バーンロムサイの孤児たちが描いた絵だったのです。知人というのは沢渡麻知さん。ホテルアートステイ那覇国際通りの設計と重なるタイミングでした。
そもそも私は、建築家でギャラリストではないので、この可愛い絵をどうするとかという考えはなかったのですが・・・・。
既存の間取りは変更できません。ふと思ったのは、でもこの可愛い絵を壁紙にしたら面白いじゃないかと。子どもたちの絵が壁になっている、これって絶対に面白いと思いました。これならイケると思ったのです。普通は建築物の壁に絵が飾っているだけのものですが、ここでは建築物というハードと、子どもたちの絵というソフトが一体化した、新しい客室が生まれました。
沖縄では少ないのですがホテルエントランスからフロントまわりはふんだんに木を使って構成しています。木が持つ独特の優しさです。エントランスは明るい光が注ぎ込む階段、そしてロビー周りには子どもたちの描いた原画を数多く飾っています。お客様が客室から出てきたら、これが私の部屋の原画だなって感じていただける。絶対こっちの方が面白いじゃないかと思いそうしました。
レストランは、カフェ感覚で空間が広がるように明るく光りが注ぐ空間を意識しました。木の色と照明は、スカイツリーなども手掛けた照明デザイナーの戸恒 浩人さんが担当しています。ピクトサインなどのデザインは、グラフィックデザイナーの水野佳史が担当し、ユニークな表現が活かされています。
アートステイは、子どもたちの絵も含めて「訪ずれた人が楽しくなること」が一番大事だと思っています。
アートスティ那覇国際通り インテリアデザイン
バーンロムサイは、HIVに母子感染した孤児たちのための生活施設として1999年12月、タイ北部のチェンマイ郊外に設立されました。当時タイではエイズが猛威をふるい治療薬も行き渡らず、たくさんの人が感染し亡くなっていきました。この病気により両親を失い、自らもHIVに母子感染した子どもたちが増加、バーンロムサイにも国立孤児院からそのような30名の子どもたちがやってきました。当時に比べ、状況は随分と変わりましたが、現在も約30名の子どもたちが暮らしています。
私の母が、代表を務めています。
ホーム開園15周年の展示会で初めてアートプロデューサーの沢渡麻知さんにお会いしました。ご自身でもギャラリー&カフェを営んでいらした沢渡さん、子どもたちの絵の色使いや力強さに魅力を感じてくださり、原画を販売するだけでなくGrowing Artistsたちのための新しい展開、支援の形を考えよう、と申し出てくださったのがきっかけです。
まだ抗HIV薬を飲んでいなかった開園当初、絵を描いたり粘土をこねたりすることが免疫力に良い影響を与えることを感じて以来、バーンロムサイの運営でも大切にしてきた想像力。今まで多くの作家、デザイナー、料理家や音楽家の方々がホームを訪ねてくださいましたが「作り出すこと」「表現すること」は身体にいいんだ!と今でも信じています(笑)。
子どもたちが描いた絵が一般の方々の目に触れる開かれた場で展開されることには大きな喜びを感じます。勉強や言葉が不得意な子でも自分を表現できるアートの世界。絵画や陶芸だけでなく、小さい頃の夢を叶え、ダンサーになった卒園生もいるバーンロムサイ。今後も創造力を育み、自立への道をつくって行きたいと思っています。
HIV/AIDSを取り巻く状況はその後の医療の発達により大きく変化しました。母子感染を防ぐことが出来るようになり、タイのエイズによる孤児やHIV感染児童は激減しています。一方、HIVに感染している子どもたちは一生投薬を続けなくてはならない、という現実もあります。
HIVに母子感染した子どもたちのための施設として設立されたバーンロムサイですが、現在では麻薬や犯罪、貧困など様々な理由で親と暮らせない子どもたちも受け入れています。
バーンロムサイの子どもたちは、タイの法律により18歳になると施設を出なければなりません。孤児であるという事、そして中にはHIVに感染しているという重荷を背負った彼らが社会に出てしっかりと地に足をつけ生きて行けるよう、子どもたちには何か手に職をつけられるようサポートしていきたいと思っています。現在では、バーンロムサイのゲストハウスや縫製場、農園などで働いたり、将来看護師や保母さんを目指して勉強している卒園生もいます。
ホテルアートステイ那覇国際通りの客室の絵は沖縄らしい、明るく希望にあふれる作品を採用しました。ひとりでも多くの皆さまにご覧いただけましたら幸いです。そして私たちを支えて下さっている皆さまに感謝の気持ちでいっぱいです。
バーンロムサイの活動は長く家族から聞いていましたが、実際に自分自身で間近に触れてみて更に深く共感した事と、何よりも子ども達の絵の面白さに自然と心身が向きました。
名取美和さん、美穂さんに話しを伺ううちに、「作り出すこと」自体に自分の身体を守る作用が働くことを知り、バーンロムサイの施設では多くのクリエイター達が子ども達と物を作る時間を築いてきた、その長い時間の大切さや施設の魅力をそのまま形にしたい、という気持ちが湧きました。
ものをつくり世に発信している作家さん達と、子ども達の絵の結びつきはそんな理由から生まれたものです。
ホテルアートステイ那覇国際通りは、すばらしい力を持った9名の写真家に協力いただき、その中には日本の物作りの先駆者である名取さんのお祖父様である名取洋之助さんの写真作品からのお部屋もあり、ホテルや子ども達、施設、宿泊するかたをのびやかな眼差しで守っていてくれたらいいなという気持ちがあります。
ホテルアートステイ那覇国際通りは、写真家だけでなく様々な表現方法で作品を発信する方々に参画いただきました。堺筋に面したレストランスペースは、陶芸を経て泥を絵の具にし作品をつくる淺井裕介さんによるものです。
各地の泥を採取し絵の具にし、過去の作品画像を細かくデータ上で組み合わせ出力した壁紙の上から泥絵の具で長い時間をかけて作り込んでいただきました。
お手伝いいただいたボランティアの方々も含め、力強いスペースをつくることに没頭し、職種や年齢、垣根をはずしたところにある気持ちを持って、長い時間を共有できたことは、アートステイの子どもと作家だけの繋がりだけではなく、更なる広がりが存在した形として象徴的なスペースになったと思います。
子どもの絵の中に見える天真爛漫さ、色の鮮やかさ、かわいいだけでないどこか切なく見える感じだったり、また、 美術作家の表現にも単純明快ではない不思議な感覚も沢山あります。
そんな様々な表現の中で、ホテルに訪れる方々のこと、現代のこと、部屋という空間に向き合って作っていただきました。アートステイを通して何かを感じるきっかけとしていただけたら、本当に嬉しく思います。
バーンロムサイでの、はまぐちさくらこと
子どもとの絵画ワークショップの様子
浅井裕介の制作現場
ホテルアートスティ那覇国際通り アートディレクション
設計:株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ
アートディレクション:artdish g 沢渡麻知
ロゴデザイン:ケイツー 長友啓典
照明デザイン:シリウスライティングオフィス
家具:小泉誠
建築サイン:水野図案室
建築写真:堀田賢治
壁紙出力:株式会社堀内カラー、株式会社ミズカミ
<アートステイご協力の皆さま>
一般財団法人日本カメラ財団、URANO、エプソン販売株式会社、
ギャラリー・アートアンドリミテッド、サードギャラリーアヤ、
シュウゴアーツ、
タカ・イシイギャラリー、ホルベイン工業株式会社、Maho Kubota Gallery、三島一路、
ユカ・ツルノ・ギャラリー、
リンテックサインシステム株式会社(五十音順)
淺井裕介制作時の皆さま(安部智美、糸井さん、伊藤大徳、
黒岩可奈、小寺美幸、小林和香、
谷このみ、茶床豪、西谷充史、波多野宏美、松尾marianeまいこ、松尾ゆめ、三浦満里奈、
以上五十音順)